【2019年日本市民・知識人の声明】

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村山談話、菅総理談話に基づき、植民地支配を反省謝罪することこそ日韓・日朝関係を続け、発展させる鍵である

 

日本と韓国は隣国で、協力しなければ両国に暮らす者は人間らしく生きていけない間柄である。そういう二つの国の間で、1904年以来41年間の軍事占領、1910年以来35年間の植民地支配が、日本帝国によって朝鮮半島に加えられた。このことが両国の歴史の闇部をなしている。韓国・朝鮮人の歴史の記憶からこのことを消すことはできず、日本人はこれに対して人間的に対処することからのがれることはできない。

朝鮮植民地支配は1945年8月15日をもって終わったが、日本人は国家、国民として韓国併合、朝鮮植民地支配について反省し、謝罪する動きを長く見せなかった。日本は独立した朝鮮の一つの国、大韓民国と国交を正常化する日韓条約を1965年に結んだ。しかし、1910年の併合条約が当初より無効であったという韓国側の主張を受け入れず、合意によってなされた併合であり、植民地支配はなかったと主張し通した。双方の請求権に関する問題が「完全に、かつ最終的に解決されることになったことを確認する」と明記した請求権協定が結ばれたが、根本的な認識の分裂は克服されずに放置されたのである。

この日韓条約のもとで日本は大韓民国との国交を維持し、経済的な関係をとりむすび、多面的な協力を発展させてきた。20余年がすぎて、1987年、韓国では、軍部独裁政権の時代に終止符を打つ民主革命が起こった。そのあとに、ようやくにして、1995年自民社会さきがけ三党連立内閣の村山富市総理が閣議決定にもとづいて敗戦50年の総理談話を発表し、はじめて植民地支配について反省し謝罪した。日本国家は「アジア諸国の人々」に対して「植民地支配と侵略」によって「多大な損害と苦痛を与え」たことを認め、「痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明」したのである。

 

この反省と謝罪は、1998年の金大中大統領、小渕恵三首相の日韓パートナーシップ宣言において、「韓国の人々」に向けて表明され、2002年の金正日委員長、小泉純一郎首相の日朝平壌宣言において、「朝鮮の人々」に向けての表明となったのである。

植民地支配についてのこの反省と謝罪は画期的な表明であった。しかし、その完成のためには、なお併合そのものについての歴史認識が付け加えられなければならなかった。

2010年韓国併合100年の年に、私たち、日本の知識人500人は、韓国の知識人500人とともに、併合の過程と併合条約について批判する共同声明を発表した。私たちは、「韓国併合は、この国の皇帝から民衆までの激しい抗議を軍隊の力で押しつぶして、実現された、文字通りの帝国主義の行為であり、不義不正の行為である」と指摘した上で、併合条約について、「力によって民族の意志を踏みにじった併合の歴史的真実」を、「平等な両者の自発的な合意によって、韓国皇帝が日本に国権の譲与を申し出て、日本の天皇がそれをうけとって、韓国併合に同意したという神話」によって覆い隠したものであり、前文も条約本文も偽りであると明らかにした。「かくして韓国併合にいたる過程が不義不当であると同様に、韓国併合条約も不義不当である」――これが私たちの結論であった。

この声明はまず2010年5月10日に発表され、ついで第二次署名者を加えて、7月28日に発表された。そして、この声明にこたえるかのように、日本政府、菅直人総理は8月10日、閣議決定により韓国併合100年の総理談話を発表した。そこには次のような日本政府の認識が述べられ、反省と謝罪があらためて表明されている。

 

ちょうど百年前の八月、日韓併合条約が締結され、以後三十六年に及ぶ植民地支配が始まりました。三・一独立運動などの激しい抵抗にも示されたとおり、政治的・軍事的背景の下、当時の韓国の人々は、その意に反して行われた植民地支配によって、国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷付けられました。私は、歴史に対して誠実に向き合いたいと思います。歴史の事実を直視する勇気とそれを受け止める謙虚さを持ち、自らの過ちを省みることに率直でありたいと思います。痛みを与えた側は忘れやすく、与えられた側はそれを容易に忘れることは出来ないものです。この植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し、ここに改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明いたします。」

 

これが、日本国家が「韓国併合」から100年、植民地支配の終焉から55年にして到達した歴史認識である。韓国国民の批判に促され、自らも努力してつかんだ反省と謝罪の新地平である。この総理談話に基づく行為として、日本統治のもとで朝鮮総督府が奪い、日本の皇室財産とされていた「朝鮮王朝儀軌」がこの年のうちに韓国政府に引き渡された。

であれば、いまは日本と大韓民国、日本と朝鮮民主主義人民共和国のあいだにのこる問題はすべて、村山談話と菅談話に基づいて、あらたな心で誠実に協議し解決していくべきなのである。日本政府と国民は慰安婦問題について過去25年間とりくんできたが、この問題はいま新しい局面をむかえている。もとより北朝鮮の慰安婦被害者に対してもこれから対処がなされなければならない。今日日本と韓国のあいだでは、いわゆる「徴用工」問題、戦時労務動員被害者問題が大きな問題として立ち現れている。日韓条約の際協議がなされ、2000年代には韓国政府が積極的な努力を払ったが、20万人といわれる戦時労務動員被害者とその遺族の不満の声があらためて日韓関係に激震をあたえているのである。この問題には慰安婦問題同様なお一層の真剣な対処が必要とされる。北朝鮮の戦時労務動員被害者問題にたいしても同様な対処を考えなければならない。その他に「韓国人BC級戦犯」の問題も存在する。戦犯として死刑判決をうけた92歳の李鶴来老人は日本政府に謝罪と補償を求めつづけている。日本は朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化をすみやかに実現しなければならない。日本政府と国民は、村山談話、菅総理談話に基づいて、韓国、朝鮮の政府と国民の協力をえて、のこるすべての問題の解決にあたることができる。

本年は三・一独立宣言が発されてから100年の記念の年である。併合されて、10年の苦しみをへながら、朝鮮民族はなおあの日、日本人に朝鮮の独立を求めることが日本のためだと説得しようとした。三・一独立宣言は述べている。「こんにちわれわれが朝鮮独立をはかるのは、朝鮮人に対しては、民族の正当なる生栄を獲得させるものであると同時に、日本に対しては、邪悪なる路より出でて、東洋の支持者たるの重責をまっとうさせるものである」と。

いまわれわれは朝鮮民族のこの偉大な説得の声を聞き、東洋平和のために、東北アジアの平和のために、植民地支配への反省謝罪に基づいて、日韓、日朝の相互理解、相互扶助の道を歩むべきときである。

 

二〇一九年二月六日

 

発起人 井口和起(京都府立大学名誉教授)、石坂浩一(立教大学教員)、李鍾元(早稲田大学教授)、上野千鶴子(東京大学名誉教授・認定NPO法人ウイメンズ・アクションネットワーク理事長)、内田雅敏(弁護士)、内海愛子(恵泉女学園大学名誉教授)、太田 修(同志社大学教授)、岡本 厚(雑誌『世界』元編集長)、小田川興(在韓被爆者問題市民会議代表)、糟谷憲一(一橋大学名誉教授)、鹿野政直(早稲田大学名誉教授)、小森陽一(東京大学教授)、高崎宗司(津田塾大学名誉教授)、田中 宏(一橋大学名誉教授)、外村 大(東京大学教授)、中塚 明(奈良女子大学名誉教授)、水野直樹(京都大学名誉教授)、三谷太一郎(日本学士院会員、東京大学名誉教授)、矢野秀喜(日韓つながり直しキャンペーン2015事務局長)、山田昭次(立教大学名誉教授)、和田春樹(東京大学名誉教授)                                                                〈五〇音順〉

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