【特集1】「学」を踏みしだく「軍」

【鼎談】「軍学共同」と科学者の責任

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安倍自公政権が集団的自衛権行使のための安保法(戦争法)を成立させて以後、「軍」がより大手を振ってこの国の各所を、歩き、また飛び回りだした気がする。大学も例外ではない。以前のようにこっそり門をたたくのではなく、研究費がほしければ手をあげろと、品なくあけすけである。

いっそう拍車のかかった軍学共同の実態を、池内了(名古屋大学名誉教授)、小寺隆幸(元京都橘大学教授)、望月衣塑子(ジャーナリスト)の3人に語っていただいた。

 

第2次安倍政権になって一気に

 

望月 軍学共同の問題について、私が関心を持った契機は、2015年度から始まった防衛省の助成金制度からですが、実際は2013年12月に第2次安倍政権が、今後10年間の安全保障政策の基本的指針である防衛計画大綱と国家安全保障戦略を閣議決定し、大学や研究機関との連携の充実、防衛に応用できる民生技術の積極的な取り込みなどを打ち出すあたりから、本格的に軍学共同がスタートしています。しかし、池内先生はもっと前から軍学共同がスタートしているとお話されていますよね。それは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が軍事、防衛技術に組み込まれた時期からになりますか?

池内 2004年に、財界は「今後の防衛力の整備について」という提言を出していますが、そこに、民生用、軍事用のどちらにも利用できる科学技術というデュアルユースの概念が使われています。財界の言い分は、軍事技術といえども民生技術の応用ではないか、だからもっと金を出せという生産者側からの発想ですが、それがおっしゃたようにJAXAにも持ち込まれ、2008年の宇宙基本法を定めて「安全保障に資する」と明記し、2012年にはJAXA法を改定して平和条項を抹消したわけです。

ですから、財界からの圧力がずっとあり、それが安倍内閣になって浮上してきたとみています。

望月 経団連の防衛生産委員会の提言ですね。

池内 政治的な流れとしてはそうですが、JAXAは2003年に偵察衛星を打ち上げています。その元になったのは、1998年8月に北朝鮮がテポドン1号を打ち上げ、直後に補正予算に偵察衛星の開発費用が盛り込まれたことです。そういう社会情勢もあったわけですが、それにこと寄せて、このさいJAXAを軍事利用しようという動きが起き、デュアルユースという言葉も使われるようになったわけです。

財界は、民生技術を軍事にも利用させることでいろいろ防衛産業を展開しようという発想でしたが、第2次安倍政権は軍事に民生技術を積極的に取り込む、軍事のための民生利用とはっきりと打ち出しています。

望月 日本は戦後、朝鮮戦争やベトナム戦争があり、米軍の意を受けての再軍備化による、朝鮮特需などの軍需景気が一時的にあったにせよ、自主的には戦争・軍事には手を染めないできた。それが第二次安倍政権になり、軍産複合体が進む欧米に倣えと軍事により特化した技術を大学や民間にもと、大学などを巻き込もうという動きが加速してきた、そのように大学や民間が軍事研究に取り込まれようとしてきている。

小寺 以前は、宇宙基本法にしても軍事利用などとは口が裂けてもいえなかったわけですね。冷戦終結後、北朝鮮の核開発や台湾の問題など、東アジアの緊張の中で、96年に行われた橋本首相とクリントン大統領の共同宣言で安保再定義がなされ、99年周辺事態法が成立します。さらに2003年、小泉政権が武力攻撃事態法を制定します。これは戦時下の民間の動員を可能にするもので、交戦権を否定した憲法とは相容れないものです。こうして徐々にアメリカとの共同作戦の範囲、自衛の範囲が広げられ、ついに集団的自衛権も合憲と言って安保法制が制定されてしまいました。そういう流れの中で、宇宙基本法だけでなく、原子力基本法にも「安全保障に資する」という文言が2012年に加えられました。9・11以降、ブッシュ大統領が「対テロ戦争」をいい、日本もそれにのってきたわけですが、安倍政権になって一気に、ドラスティックに進んだのです。

望月 この数年の動きを見ますと、3・11があって、政権が日本の「ビッグ・ビジネス」を海外にうまく売り込めていないということも影響しています。原発だとか新幹線という1兆円規模のインフラ輸出がしたいのに、原発事故があり、新幹線も東南アジアなどでは関心はあるが、何せ高い、向こうにしてみると1兆円ビジネスは、10兆円ぐらいのものになりますから、なかなか話が進まない。中国に取られてしまう。それで、官邸サイドでは1兆円のインフラはなかなか輸出が見込めないので、中国の脅威を背景に軍事、武器輸出でも売り込んでいこうという動きが進んでいます。2014年の武器輸出解禁前から進んでいるのは、警備艇や巡視艇などの売り込みで、規模は20億、30億と小さいですが、中国脅威論を背景に、インフラ輸出と同じような感覚で、円借款での融資を中心とした、売り込みが進んでいます。

小寺 三菱重工などはそうかもしれないけれど、財界の中心は、これから輸出は軍事で、と思っているのでしょうか。

タガが外れる財界

 

望月 そこにも微妙な変化がありますね。いままでは、防衛企業は「自衛のため」と納得させてきたのが、武器輸出が解禁されたことで守るための技術といえなくなっているわけです。でも、例えばミサイルを作ると回り回って自分のところに落ちてくるかもしれない、少なくともターゲットにされるのは間違いないというところで、作り手である防衛企業側は、危機意識もあるし、武器を輸出するということについて、何となく嫌悪感、拒否感を持っている。そこは、憲法と9条があることによって培ってきた日本人のメンタリティがまだ深く根付いているのだと思います。

潜水艦の武器輸出で日本は売り込みをかけましたが、昨年、オーストラリアはフランスを選定しました。あれに「落札しないで良かった」と胸をなでおろした人は少なくないように思います。潜水艦は機密の塊と言われ、リスクが大きすぎるんですね。技術流出の可能性も大きいですし、製造に失敗したときの保障は何もないわけで、期限内に建造できなければ、違約金として何千億と抱え込むことになる。

ですが、武器輸出解禁から2年半以上が経過し、企業の意識にも変化が見えてきました。川崎重工がニュージーランドに売り込みをかけている、P1哨戒機とC2輸送機の場合は、あれはドンガラ、要するに入れ物だといって乗り気なんです。中身のシステムはアメリカ製だし、技術のブラックボックス化はそこは装備庁がうまくやるだろう、というわけです。ビジネスとしても数千億の規模になるし、ボーイングやエアバスとの競争だが勝機がないわけじゃない、といっています。

哨戒機は、対艦ミサイルも積むわけで、そのタガの外れように正直、取材していて戸惑いを覚えました。

池内 経済界は今のところおそるおそる、〝みんなで渡れば……〟というところじゃないかなと思います。だから、安倍政権のやり方を支持しながらじっくりと広げていこうというところのように見えます。そのなかで、軍学共同をほしがっている。新しい軍事技術が売り込むためには必要だし、同時に、いまの自衛隊はここが弱いというところを見つけて、売り込んでいくことも考えていると思います。

望月 防衛省の助成金制度について、村山裕三さん(同志社大学副学長)が、軍事技術というと大学は手を出せないが、同じ技術でも防衛、安全、安心のためといわれると対応が違ってくる。それを、いままでは、防衛省の側は自分たちで協力してもらえる人を探さなくてはいけなかったが、防衛省が制度として立ち上げ、安全、安心の技術にはお金を出しますよといって手を上げてもらうようにすると、想定していなかったところから手が上がる。コストもかからない。眠っている技術を掘り起こせ、ということだと制度を意味づけています。

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