朝鮮核危機

対話と核兵器廃絶の輪で

三浦一夫

みうら・かずお | 

1940年生まれ、ジャーナリスト、本誌編集委員


朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の最近の核実験と弾道ミサイルの発射、これにたいする米国と日本、韓国などの軍事力がらみの緊迫した対応は、朝鮮半島、東北アジア地域だけでなく国連、国際社会全体を巻き込んで危機の様相を深めつつある。

国連安保理は9月11日、北朝鮮の6度目の核実験後に、かつてない内容の強硬制裁決議を採択した。北朝鮮はこれに反発して新たな長距離弾道ミサイルを発射し、米国のアジア軍事戦略の拠点であるグアム基地を攻撃できる力があるとした。米軍は韓国軍とともに、朝鮮半島と周辺海域で北朝鮮を威嚇する共同軍事作戦をおこない、日本の自衛隊はこの作戦に部分的にだが参加している。事実上の安保法の発動による米韓日共同の軍事作戦である。

危機的状況を国際政治の場でも表面化させたのが9月20日に開幕した国連総会だが、事態はその後さらに悪化している。

とりわけ総会でのトランプ米大統領の演説は、国際問題を論議で解決するという国連本来の在り方から完全に逸脱した、「やくざの脅し」ともいわれるほどの恫喝。さらにそれに勝るとも劣らないのが安倍首相の北朝鮮敵視、挑発の演説であった。二人が共通して繰り広げたのは「軍事力の行使やむなし」論、戦争正当化論だった。

総会での演説後、二人は自分達の主張が多くの首脳によって歓迎され、国際社会の対応の共通の基準になったと言いふらしたが、事実はどうだったろうか。彼らはほかの首脳たちのスピーチをキチンと聞いたのだろうか。

たしかに、多数の代表が北朝鮮の核実験を非難し、新たな安保理制裁決議支持を表明した。しかし、同時に彼らの多くが強調したのは、圧力とくに軍事力による「解決」ではなく、「対話と交渉による解決」だった。「対話と圧力」という両論の提起も出もなかった。

平和な世界の樹立を憲章で求めているオリンピック・パラリンピック。平昌冬季大会の開催は半年後に迫っている。三年後は東京である。戦争の危機のもとでのこれらの重要行事の開催を世界は歓迎するのだろうか。イタリアは冬季大会不参加の意向も示している。

今日、北朝鮮の核問題は朝鮮半島や東北アジアだけでなく、国際社会全体の問題となっている。だが、それを、安倍首相がいうように「いまや対話の段階ではない」として圧力による解決を求めるのは、危機をさらに拡大するものでしかないと世界は懸念しているのである。

事態は重大であるだけに、冷静に正しい対処法を考え、行動することは、日本国民の重大な国際的責務である。自分が勝手に設定した総選挙で争点に掲げ、力の論理を正当化するという仕掛けに引きずられてはならない。

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第一は、軍事力や圧力で解決するという考え方はもちろん、圧力と交渉という二面政策で解決するという発想の間違いをはっきりさせる必要がある。

国際紛争を軍事力、力によって解決するのは間違いだという考え方は、二つの世界大戦をへて人類共通の認識となり、国際的法制化もすすめられてきた。そのことの重要性を改めて浮き彫りにした一つが、今世紀に入ってからの出来事、核兵器に関する「疑惑」を口実に米国、英国がNATO(北大西洋条約機構)諸国やアラブ諸国など少なからぬ国々を巻き込んでおこなったイラク戦争である。この「疑惑」そのものがウソであることがのちに明らかにされたのだが、戦争によってイラクという国と政権は崩壊した。破壊と混乱は今では地域全体におよび、いまも続いている。

イラクにたいして軍事力を行使するかどうかをめぐって国連安保理は半年以上論議を続けた中で。フランスのドビルパン外相は一貫して、武力による対応は問題を解決しないだけでなく事態をさらに危険なものにすると反対しつづけた。その後の事態はまさにドビルパン氏の主張の通りになった。

そのイラク戦争の間違いを指摘して政権の座についたのが米国のオバマ大統領だが、彼は「テロ集団」「イスラム国」を対象に大規模な軍事攻撃をかけ、そうした戦争政策はトランプ政権下でも続いている。それらの力の政策によって、中東情勢は平和と安定に向かっているだろうか。「イスラム国」の力は弱まったともいわれるが、テロ問題はむしろ新たな国際化の様相を深めている。

朝鮮半島ではどうか。軍事的対決の状況が近年重大化するなかで、いまや核兵器の使用の危険性が浮上してきている。金正恩体制下で繰り返される核実験や弾道ミサイルの発射は一挙に実戦の様相を帯びてきている。他方、これにたいする米軍の対応も急速にエスカレートしている。米韓両軍の合同軍事「演習」は毎年のことだが、今年は危険度のレベルが違う。核兵器搭載(可能)の最新型戦略爆撃機B‐1Bによる南北軍事境界線すれすれの威嚇飛行に加え、日本からの空母部隊の派遣など、核戦争を想定した軍事挑発が続いている。

「『演習』というのはただの訓練ではない。実際の軍事作戦の一部です」とは、かつて筆者の取材に応じた在日米軍司令部幹部の言葉だが、彼らにとってはまさにそれ自体が戦争の一環、しかもただの戦争ではなく核戦争の一環なのである。

メルケル独首相をはじめ多くの首脳たちが、北朝鮮側の対応のあやまりを指摘しつつも、なお対話による解決をいう底にあるのは、人類が歴史から学び取った英知とともに欧州での戦後の核戦争の危機回避の努力と体験であろう。

米国の政権内部あるいはその周辺でも「対話で」という声が次第に高まっている。6月にその趣旨で訴えを出した、シュルツ元国務長官やペリー元国防長官らはそうした人たちだが、重要なのは、彼らは一時は軍拡推進、軍事的対決の拡大の場につきながらその後の現場の交渉を経て、対話による解決しかないという原則を確信するにいたった人たちであるということである。ペリー氏は一時は北朝鮮せん滅という政策を検討する立場にあった人だが、自らの交渉あるいは現実の分析の上にたって、朝鮮問題の解決は対話による以外にないという結論を抱くようになった政治家である。2005年の6者協議共同文書作成で苦労したクリストファー・ヒル元国務相次官補は、自らの体験から「北との交渉は虚像である」という主張は「結局北の強硬論の後押しをしている」とし、「踏み込んだ対話」の必要性と説いている。

米朝共同声明や6者共同声明がなぜ実施されないのか、誰の責任なのかなどは正確に分析する必要がある。しかし、そのことの解明と必要な是正をおこなうためにも今、冷静に対話するしか解決の道はないとする様々な声に耳を傾ける必要がある。

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もう一つ忘れてならないことは、今回の北朝鮮核危機が、国連での核兵器禁止条約の論議と条文の作成という歴史的出来事と同時並行的にすすみ、重大化してきたということである。二つのことは、からみあいながら進行してきたわけではないものの、そこには、北朝鮮核問題の根本的原因がうつし出されている。とともに、この問題の解決の入り口が示されているという点できわめて興味深い。

なぜ今北朝鮮は核兵器保有にこだわるのか。核兵器保有に固執しているのは、北朝鮮だけではない、米ロ英仏中の核保有五大国、それにインド、パキスタン、イスラエルがそうである。しかし、「われわれの核兵器保有は核不拡散条約(NPT)で保障されている。ほかの国は持ってはならない」という理屈の間違い、そういう不合理が核兵器のない世界をという国連第一号決議の実現を妨げている最大の要因なのだということは、いまでは世界の常識となりつつある。

2010年のNPT再検討会議は、いまこそ世界は核兵器廃絶に向かうべきだということが国際政治の舞台で本格的に論議され、大多数の国の指示を得て正面からかかげられた歴史的な会議だった。そこでは、五大核保有国はそれぞれの保有している核兵器を削減するという第六条の実行も再確認された。しかし、以後五大国はその約束をほとんど果たしていない。

北朝鮮問題との関連でいえば、北朝鮮非難、制裁強化の決議の採択をすすめた五つの安保理常任理事国、6者会議の全メンバーが、核兵器廃絶条約に反対あるいはきわめて消極的態度をとっている。だから北朝鮮の核兵器保有は正当化されるというのではない。逆である。核兵器を作らせない、持たせないことで合意するにはどうしたらいいのかを探るヒントが、ここにあるということである。

北朝鮮は昨年五月の党大会で「非核の世界」について言及し、秋の国連の核兵器廃絶条約検討会議では条約の作成に取り組むことに賛成した。しかし、今年になってからの条約準備会議になってからは会合に参加していない。なぜか。どうせ信用できない国という見方もあるが、どうだろうか。

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90年代初めに、IAEAの代表として北朝鮮に滞在して監視・査察活動をおこなったハンス・ブリクス氏は2005年(最初の核実験一年前)の訪日の際に講演をおこなった。そこで、「北の核兵器開発をやめさせるために具体的どうしたらいいとおもわれますか」との質問にこう答えた。

「かれらが核兵器に目を向ける理由、口実を無くさないかぎり簡単には計画を放棄しないと思う。これはあの国に滞在して現場を見てきたうえでの感想だ。大事なのは、まず北朝鮮の主権を認めること、そして彼らの国にたいする先制攻撃、一方的な軍事攻撃はしない、核攻撃はしないと約束し、それを裏付ける地域的な非核化を実現することだと思う。さらには、国際的な規模で核兵器廃絶の方向に世界が踏み出してゆく必要があると思う」

最近の緊張した状況のもとで在日北朝鮮系の人はこう語っていた。「祖国は守りたい。しかし、そのために核兵器を作るし、使うこともあるというのは、日本にいて被爆の実態、核戦争が起きたらどうなるかを見聞きしている私たちとしては、なんでも賛成とはいえない。被爆同胞からもいろいろ聞いています。日本のみなさんにはそういう私たちのことも理解していただいて、朝鮮の政府にたいして事実をもって語りかける、そういう対話をするようにしてほしい、と思っています。その点では南も北もない、同じ気持ちだと思います」

朝鮮半島核危機問題解決の糸口は、対話と核兵器廃絶の共通土壌の構築にある。それ以外にない。

しかし、もう一つ明確にしておくべきことがある、それは、朝鮮問題そのものと日本の責任という問題である。朝鮮問題の根本に立って、日本の責任と可能性について考えることである。紙幅の都合で論じられないが、かつて外務省のアジア局長、中国全権大使などを務めた中江要介氏(故人)が、口を酸っぱくして語られたのはそれだった。機会があれば紹介したいと思うが、いま筆者の脳裏に浮かぶのは、その言葉の重みである。

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