核兵器禁止条約と北東アジア非核化への道

 | 



【特集2 核兵器廃絶の新しい時代へ】

梅林宏道さん(ピースデポ特別顧問)に聞く

 

NPTの行き詰まり、核廃絶への意志

――2017年7月に核兵器禁止条約が国連で採択され、さらに秋にはノーベル平和賞にICAN(NGOネ ットワーク「核兵器廃絶国際キャンペーン」)が選ばれました。どのような感想をお持ちですか。

 

梅林 核兵器禁止条約は、私自身これを作るプロセスに関係したものですから感慨深いものがあります。歴史的にもエポックメーキング、大きな前進だと思います。何よりも核兵器禁止のために運動を進めてきた人たちが元気になりました。

私は、今回の核兵器禁止条約について肝に銘じなければならない点が三つあると思っています。一つは、NPTプロセスの行き詰まりを何とか打開しようとした、集中した努力の結果生まれたものだという点です。その背後には被爆者の方たちを始めとする長い運動の積み重ねがあります。ある意味で出るべくして出た成果です。

NPT(核拡散防止条約または核不拡散条約)は、核不拡散・軍縮を目的にアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国以外の核兵器の保有を禁止するとともに、この5カ国も誠実に核兵器撤廃の努力をするという内容の条約です。関連諸国による交渉、議論を経て68年に条文が確定、署名に解放され、70年3月に発効したものです。NPT第6条には「核軍備撤廃のために誠実に交渉を行う義務」が規定されています。条約は発効から25年目に再検討することになっていて、25年目の95年にNPTの無期限延長を決めたわけですが、その際、核兵器国が第6条義務をより明確に誓約する政治的コミットメントを行いました。つまり、条約の無期限延長は核保有国が系統的に核兵器を全廃するという約束と対になって認められたわけです。その後の再検討会議でも第6条義務の履行に対して追求が続きました。2000年合意ではそれなりの成果も生まれました。しかし、アメリカがブッシュ大統領になって05年は成果なく終わり、オバマ大統領に代わった10年はやや前進、しかし15年はダメという流れで今日に至っています。

少しずつ前進しているとは言えますが、今のままだと言葉の上で前進するだけのくり返しになってしまう、何らかの実質を伴う成果を生み出さなければならないという、運動を進めている人たちや積極的な国々の間にイラ立ちが生まれていました。そこに、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン、核兵器禁止条約の実現を中心になって進めてきた世界的なNGOの連合体)などが人道アプローチを掲げて運動のリーダーシップを発揮しました。もう一度、核兵器の非人道性という原点にたち返って、禁止を求める国際世論を形成しようというものです。今回の禁止条約はそのような人道原理に立つものになっています。

 

核兵器の違法化に成功、しかしなお課題

二つ目に、禁止条約が何を達成したかという点です。

結論的には、人道原理を基盤にして核兵器の違法化に成功した、といえます。これは大きな達成です。禁止条約はある意味でモラルベースの考え方と結果(条約の文言、表現)を特徴としています。核兵器を廃棄する過程や結果を検証することに触れていません。この点は、国々や運動体のなかで相当議論がありました。道義的禁止というだけでよいのか、それだとその先に核兵器を本当に無くすプロセスはふくまれないのではないか、核保有国や核の傘に入っている国が関与せざるをえないような何らかのとっかかりを組み込んでいくべきではないか……、結構な議論になりました。私たちピースデポも、このような観点から、成立した条約とは異なる構造をもった条約の考え方を提案しました。

結果を見ると、条約は核兵器に〝悪のらく印〟を押したのです。核兵器は化学兵器や生物兵器と同様、文明に対する犯罪となる、人間として恥ずかしい兵器であるという規範を条文にしたわけです。人間たるものこういう恥ずかしい兵器を持つことに耐えられないはずであり、やがて廃絶に向かうであろう、その基礎になる条約が生まれたと言えます。

よく、奴隷制でさえ廃止できたのだと、核兵器禁止への長い道のりをなぞらえていわれます。奴隷制は廃止に数百年もかかったので、私としては単純にそう言われてもという気持ちはありますが(笑い)、いずれにしてもその出発点に立ったとは言えます。

三つめの点は、この条約はしかし、全ての核保有国と日本やNATO諸国など核兵器依存政策をとっている国々に対して、この条約によって核兵器をなくしていくべしという、制度的な縛りが組み込まれていない問題です。これはこの条約の欠けた部分といっていいかと思います。つまり、それぞれの国の安全保障政策を変更させながら、やがては禁止条約に組み込んでゆくという問題は、大きな課題として今後に残ったということです。

その点では、NPTプロセスの行き詰まりという問題に戻った側面があります。このジレンマを克服するために、核兵器禁止条約の成立という成果をどのように活かすかということが今後に問われています。

 

ノーベル賞と核のない未来賞の受賞

――世論を喚起していくという意味では、ICANのノーベル平和賞受賞は大きいのではないでしょうか。ノーベル平和賞は政治的な意味合いの大きいものですから、北朝鮮の核開発をめぐる核戦争危機という事態 へのつよいメッセージでもあると思われます。

 

梅林 そうですね。非核3原則で1974年に佐藤栄作に授賞するなどミスジャッジがあったりしますが、近年では中国の人権活動家を選んだり、2014年はマララさんでした。その時々の世界の焦点を考えていて、ふつうの市民感覚に基づいて選考されているとも言えますね。個々の受賞には時代の巡り合わせみたいな部分もあります。それでも核兵器をなくし平和への道を切り開こうという懸案に対する努力の積み重ねへの評価ですから、うれしいですね。

 

――梅林さんご自身も、核のない未来賞を受賞されました。神奈川新聞によると、「北朝鮮情勢が緊迫化する中、朝鮮半島の非核化に向けた地道な取り組みが世界的に高く評価された」とあります。これはどういう賞なのでしょう。

 

梅林 核のない未来賞は、ドイツ・ミュンヘンに本部を置く財団が1998年、地道だが先駆的な非核化の活動に光を当てる目的で創設されたものです。チェルノブイリの事故が大きなきっかけだったと言われています。

レジスタンス、エデュケーション、ソリューションの3部門があって、日本ではこれまで平和市長会議と秋葉忠利広島市長、写真家の樋口健二さん、医師の振津かつみさん、アイリーン・美緒子・スミスさんが受賞されています。私は5人目となりますが、ソリューション=問題解決の分野での受賞は初めてです。いまの情勢もあるのでしょうが、北東アジアの非核地帯構想とそのための努力や、また、日本の反核運動における垣根を超えた草の根活動への評価でもありますので、とてもうれしく思っています。

 

「北」の核の現状からでも非核地帯構想は有効

――梅林さんが北東アジアの非核兵器地帯構想を提起された当時と比べますと、北朝鮮は核を保有するに至っており、大きな情勢の変化があります。

 

梅林 ええ、しかしそれでも有効であるし、それしか解決への道はないのではないかと確信もしています。96年にいわゆるスリー・プラス・スリー構想を提起したわけですが、当時は、92年に南北朝鮮の非核化宣言が発効し、日本も非核3原則を「国是」としていましたので、これを基礎にすれば3カ国が非核兵器地帯を構成する現実的な見通しがある。それに対して、周辺の核保有国であるアメリカ、ロシア、中国がその意思を尊重し、3カ国に核を持ち込まない、核攻撃したり核で脅すなどのことをしないと約束する。そういう3カ国条約に3カ国が議定書で参加する形を想定しました。

その後、最初から6カ国が交渉することが望ましいと考え、6カ国条約のモデル条約を提案しました。日本政府はアメリカの核の傘が必要な理由として中国の核(場合によってロシアの核も)をあげますし、北朝鮮はアメリカの核の脅威を一貫して主張していますから、3カ国交渉ではなく、始めから6カ国条約で交渉するのがいいと考えたわけです。

2011年に、アメリカのモートン・ハルペリン(アメリカの政治学者、ジョンソン大統領時に国防次官補代理、ニクソン大統領時に国家安全保障会議メンバー、クリントン時に大統領特別顧問など)が「北東アジア非核兵器地帯」と題する論文を発表し、それに向かうための包括的アプローチを提案しました。これは、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議が暗礁に乗り上げていたのを打ち破る点でも、また、北朝鮮が核を持つ理由としてこだわっている問題を解決していく点でも、重要なものでした。6項目ありますが、①朝鮮戦争の戦争状態の終結、②安全保障に関する常設協議体の創設、③相互に敵視しないとの宣言、④核およびその他のエネルギーに関する支援条項、⑤制裁の終了、⑥北東アジア非核兵器地帯の設置です。

大統領顧問までやった人の提言として重みがあり、また現実的でもありましたので、それで行こうという感じになりました。2012年から3年間、私は新設の長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)の初代センター長を務めましたが、その期間、ハルペリンを招きながら提案をさらに発展させる研究を進めました。アジアの視点、そして被爆地の言葉でそれを発展させる意味がありました。その結果、2015年、「北東アジア非核化への包括的枠組み協定」という提案をしました。RECNAではその後も国際的専門家パネルを組織して、その構想を実現する努力を継続しています。北朝鮮の核開発が進んでいる現実を踏まえ、「北」にとっても意味ある提案だと確信しています。

(以下は本文をお読みください)

一覧ページに戻る