【インタビュー】のんきな場外意見をいっている場合ではない

米朝戦争危機と日本

 | 



和田春樹さん(現代朝鮮研究)に聞く

 

戦争を回避する必死のこころみ

 

――平昌オリンピックでは、南北が統一旗をかかげて合同入場しました。金正恩・北朝鮮労働党委員長の特使として妹の与正さんも訪韓し、文在寅大統領と会談しました。日本では「微笑外交にだまされるな」と政府は盛んにいっています。どう見ておられますか。

 

和田 昨年初夏あたりから米朝戦争がいよいよといわれてきました。トランプ大統領が9月の国連総会一般討論で、北朝鮮の最高指導者・金正恩を「ロケットマン」と呼び、「ロケットマンは自殺任務に突き進んでいる」、アメリカが「自分や同盟諸国を防衛するしかない状況になれば、我々は北朝鮮を完全に破壊するしか、選択の余地はない」と述べたことは、一つの大きな表明と見ました。その後トランプは日本と韓国を訪問し、韓国国会では、北朝鮮の体制について、「監獄国家」、「収容所列島」、「ならずもの国家」と罵倒し、北朝鮮は「地獄だ」、北朝鮮国民は「奴隷」以下だと決めつけました。こういう政権が核の破壊力で脅迫することを、世界は許さない」と、私にいわせれば、降伏要求を突きつけました。北朝鮮に核、ミサイル開発の放棄を求め、そのための軍事的圧力を極限にまで高めて、最終的には戦争も辞さないという威嚇を前面に出してきました。

トランプ大統領はアジア諸国歴訪の旅から帰って、北朝鮮をこんどは「人殺しの国家」とよび、テロ支援国家指定を復活させました。これに対して北朝鮮は、11月末に火星15号を打ち上げ、ICBM(新型大陸間弾道ミサイル)の発射実験に成功、アメリカ全土へのミサイル到達が可能になった、「国家核武力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業」をなしとげたと発表しました。

ここで、米朝対立は決定的な危機局面に入ったように思います。いつ戦争が起こっても不思議でない「レッド・ゾーン」に入った。だからこそ、国連のグテレス事務総長は12月はじめ、フェルトマン事務次長(政治局長)を北朝鮮に派遣し、仲裁に乗り出しました。いったん米朝戦争になると大きな被害を免れない韓国もさまざまに働きかけをしました。戦争、軍事衝突を避けようとする必死の動きが12月初めからいろいろと始まりました。その中心になったのが平昌オリンピックです。

年が明けて元旦、金正恩委員長が「新年の辞」で平昌オリンピックへの協力を表明しました。開会式には、党内序列第2位といわれる金永南最高人民会議常任委員長を団長に、金正恩の妹の与正氏も加わって代表団が派遣されました。北朝鮮指導者の直系親族が韓国を訪問するのははじめてのことで、彼女は兄・正恩からの書簡を携え、文大統領に北朝鮮を訪れるよう求めました。

こうした展開に、緊張局面が対話局面に入ったと見る人もいますが、そうではなく、緊張局面の中で米国が軍事行動にまで行きそうなので、何とかしないといけないと、必死の試みがおこなわれ、ある程度それに成功して、対話しようという気分が米朝両者、指導部にも人びとの間にも出てきたというところでしょう。オリンピック休戦ですから、パラリンピックがありますから、それまでは「休戦」しているとしても、かりに対話が南北間でおこなわれても、容易に合意、和解がうまれるはずはなく、決裂すれば以前の状態に戻るでしょうね。対立の本質は何も変わっていないわけですから。

 

――平昌オリンピックの報道を見ていますと、いろいろな思惑にもかかわらず、韓国の人たちは北朝鮮の「美女応援団」をはじめ、全体として好意的です。

 

和田 韓国の人たちは軍事衝突の危険が高まり、緊張状態がつづいていましたから、少しホッとしたというところではないでしょうか。戦争だけは起こしてはならないという気持ちは強いわけですし、和解の方向を大多数が望んでいます。それが文在寅大統領を誕生させた背景にあるわけですからね。

一部には、韓国の旗のもとでたたかえという意見もあり、韓国旗を出さなかったのはけしからんという声もありましたが、やってみると、多くの人はよかったということになっています。女子アイスホッケーで合同チームをつくり、連敗はしましたが2点取った、とくに日本戦で1点取って力を示したということでよかった、よかったとなっています。

こういう方向をとらないといけない、というのがいまの韓国の人たちの気持ちではないでしょうか。

 

「I’m with you」でいいのか

 

――日本政府は依然、「圧力」一辺倒の対応です。これはどうご覧になりますか。

 

和田 「微笑外交」にだまされるな、と盛んにいうのですが、そんなことは韓国の人たちは百も承知ですよ。今さらアメリカや日本にいわれなくても分かっている。しかし、今のままでは戦争になる、そうなっては困るから、文大統領を支持し、少しでも危険を避けようとやっているわけです。

日本は政府から新聞、マスメディアも、とにかく「だまされるな」だけといっている状態です。何が問題なのか、まったく分かっていないのです。のんきな場外の見物人の意見にすぎませんよ。当事者たちは必死の外交をやっていて、善意を伝え合って緊張をほぐし、戦争を避けようと思っている。そういう気持ちが分からないのです。とくにこんどはひどいと思います。

 

――「のんきな場外の意見」といわれましたが、しか し、戦争になると日本は場外ではすまないでしょう。 とくに在日米軍基地がミサイルの標的になる可能性は あります。原発が狙われるかもしれません。

 

和田 安倍首相はトランプ大統領との一体化、方針の完全一致を誇らしげにいいますが、その中味については一切いいません。トランプ大統領の訪日後の国会で山本一太議員が質問しても答えませんでした。自党の議員にすらも黙っている。11月28日にNHKのスペシャル「独自取材・対北朝鮮日米首脳会談の内幕」をつくらせましたが、十分な説明はしませんでした。トランプ大統領からはどういう軍事方針であるのかを聞かされているはずだし、安倍首相はそれに対して何かいうなり、態度を示しているはずです。

昨年秋、米韓両海軍が米原子力空母3隻が参加して日本海で合同演習をおこない、それに日本の自衛隊が参加しました。これは、非常に危険です。威嚇から実戦へは切れ目なく進むものです。あるとき、これから戦争をするぞ、と宣言してはじめるわけではありません。演習に協力している自衛隊は、何がきっかけかはともかくとして、実戦に入ると否応なくそれに参加せざるを得ません。

問題は、そのことを安倍首相はΟKしているかどうかです。

(この続きは本文をお読みください)

一覧ページに戻る