編集後記

新船海三郎

しんふね かいさぶろう | 



▼史上初めての100兆円超えになる2019年度予算案があっさり決まった。「いざなぎ」超えの景気が背景かも知らぬが、歳入はその実感のない庶民の懐。あるいは博打に似た投資。よくぞまあ、だ。消費増税の対策に2兆円強など、上げなければ必要ない支出があれば、護衛艦を戦艦大和よりやや短いだけの大型空母に改修するための研究に7千万、1機100億円強の戦闘機や200億円を超える警戒機の購入、ミサイル迎撃システムは1700億……防衛予算は過去最高の5兆円を超えた。第2次安倍政権ができて7年連続の増額。今さらいうまでもないが、これらのほとんどはトランプ米大統領に押しつけられ、〝強固な日米同盟〟を誇って買い付けたもの。支払いはローンらしいが、借金を含めた支払いは4兆円を超えるという。戦争はある日突然始まるものでないとはよく言われるが、突然始めてもいいように準備は着々――か。

 

▼本誌にもいくどか寄稿している高賛侑氏が監督したドキュメンタリー映画「アイたちの学校」が完成し、DVDが送られてきた。高が制作を思い立ったのには、朝鮮学校が高校無償化の対象から外されたことがある。民主党政権時に始まった制度設計では、対象にするのを前提としていたのが、自公が政権を奪回するやイの一番に対象外、としてきた。朝鮮学校はそろばん塾などと同じ各種学校に置かれ、地方自治体の援助を受けてきたが、政府はそれも見直せと指導。「官制ヘイト」(前川喜平元文部事務次官)も甚だしい露骨な差別。映画は、日本の敗戦やサンフランシスコ条約による「在日」朝鮮人の処遇(日本人じゃない、イヤ日本人、やっぱり……)、4・24阪神教育闘争はじめ民族教育への「在日」の思いや日本政府・自治体の同化一辺倒の強硬な対応、あげくの実弾発射の弾圧、などの歴史をたどりながら、民族を自覚し、誇りを持って生きる若者たちの姿を映し出していく。見終わったあと、オレは日本人、と胸を張れるかと自問。ぜひ多くの方にご覧いただきたい。上映活動への協力を私からもお願いする。

 

▼この数ヶ月、鷲巣力『加藤周一はいかにして「加藤周一」となったか 「羊の歌」を読みなおす』、堀田百合子『ただの文士 父、堀田善衞のこと』、川内有緒『空をゆく巨人』(開高健ノンフィクション賞)、高橋千図『明恵 栂尾高山寺秘話』、黒川創『鶴見俊輔伝』と、出版されるまま手にしていたら人物伝ばかりだったことに気づく。加藤、堀田、鶴見は、アジア・太平洋戦争やその後の朝鮮戦争、ベトナム戦争を出自とともに生きる重大契機としてきた。明恵は奈良の大仏を建立した華厳経中興の祖とされ、平氏から源氏へ移る戦乱時代に貧窮に喘ぐ民の救済一途に信仰を究めようとした。『空を……』は現代美術界の巨星蔡國強と福島県いわきの実業家志賀忠重の出会いと創作をたどるが、蔡は天安門事件を、志賀は農の切り捨てと3・11を背負う。強いてこれらの人物に共通することを挙げれば、異質異端、対立者をともに未来社会をつくる相手と認める、ことだろうか。同調圧力と排除排斥のなか、一人を恐れないが、一人では生きられないことをよく知り、そこからしなやかで強靱な思想を得た、といおうか。

 

さて、新年。諸氏の健康と健闘を祈りつつ、いっそうのご鞭撻を願う。

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